2024年10月6日日曜日

堀田仁助

 明和2年(1765)9月20日付で「堀田兵之助」が渋川図書光洪宛に提出した、天文暦術の誓約書が現存する。これは津和野藩士の堀田仁助(1745-1829、通称ははじめ兵之助、号は泉尹)のことだろう。堀田は天明3年(1783)に幕府天文方属員となり、寛政改暦にも参加し、また地理学・地図学の分野で業績を残した。堀田は山路の弟子の藤田貞資に和算を学んだが、渋川光洪の暦術の弟子にもなっていたことは、残される史料の内容から考えて、ちょっと意外で面白い(当時の文脈では当然のことだったかのかもしれない)。

2024年5月28日火曜日

小林謙貞のその後

1.古賀『長崎洋学史』上、天文、244頁に「糸屋氏は、小林氏の親族であったらしい」と言っている。「小林謙貞伝」には盛り込めなかったが(注37に盛り込むべきか)、古賀がそういうなら、何か典拠があるのだろう。

2.晧台寺墓の最上段の糸屋家墓地に「みつかわ」銘の墓碑があった。元禄期の万屋町水帳にも「みつかわ」あった。『村山東庵とその一族』にも、みつかわが、村山氏と関係があったことも書いてあったはず。

3.樋口権右衛門の免許状については、林鶴一『和算研究集録』をとっかかりにするのがよいかもしれない。

2024年5月27日月曜日

慶長六年具注暦の「時正」

[舟橋秀賢]筆『慶長六年具注暦』京都大学附属図書館 6-04/ケ/1貴
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00008026

2024年5月10日金曜日

デザイン論法

1603・4年イエズス会日本年報(報告集第Ⅰ期第4巻、277頁) 

 ここに、日本の高貴できわめて古い家系の異教徒の若者がいた。彼はかつて太閤様の小姓を務め、現在は福島(正則)殿に仕えており、彼の一寵臣の嗣子である。この男は禅宗に属し、その宗派の仏僧たちは多額の金を支払う何人かの人たちに或る種の黙想(坐禅)をさせる習わしだが、(仏僧らは)彼にもそれを行なわせた。その黙想は、救済はなく、我々に見えている肉体的なこれらすべてのものには外見的なもの以外には真の存在はないと要約される。つまり、万物はこの現在の生をもって終るということである。そして、生来、この若者は才能に優れ雄弁なので、友人のキリシタンの兵士たちとつねに大論争を交わしていた。

 ついに、或る時、他の二人のキリシタンといっしょにこの城のある場所を見張ることになった際に、論戦はすさまじいものとなり、嗄声になるまで一晩中をそれに費やし、最後に、説教を聞きに来い、そうすればどんなに誤っているかが判るであろうということになった。彼は、彼らの言うことに同意して聞きに来たが、それは、改宗するよりも論争したいと思ったからである。このようにして、初回の説教では、物凄い怒鳴り声をあげ、ひどくしつこく言い張ったので、説教している広間では彼のせいで話し声が聞こえぬほどであった。

 二回目には、天と地と万物の創造者が存在することを証明した根拠の有効性を見て、若干穏やかであった。そのため、その後、聞いたことを一人だけで考察し始めた。そして、自然の光が教えることにすべてがかなっていることを見出し、空が澄みわたり清朗な或る夜、月と星を長い間注意深く眺め、それらがいとも規則的な歩みで運行し、少しずつ西に近づき、ついに若干の星が地平線の下に沈むことに気づいた。そして、このことから、この世の秩序と調和に思いを巡らしていった。こういうわけで、デウスの恩恵をもって次のように結論した。これらすべては万物のあの第一原因、(すなわち)キリシタンの教えがデウスと呼んでいるものの明白な作用以外の何物でもありえない。したがってただ(この教え)のみが真実であり、仏僧たちから学んだすべてはまったくの誤りと見せかけである、と。

2024年3月27日水曜日

『スヘラの抜書』関連文献

A growing bibliography of what has been written on Sufera no nukigaki スヘラの抜書

last updated: 2024.3.27

<primary sources>

Sufera no nukigaki スヘラの抜書. Herzog August Bibliothek, Cod. Guelf. 7.5 Aug. 4°, ff. 318r‒423v (the corresponding digital images are numbered 765‒850). The digital images are available on libraryʼs website: http://diglib.hab.de/mss/7-5-aug-4f/start.htm.


<secondary materials>

Osterkamp, Sven. 2020. “A Rediscovery in the Herzog August Bibliothek. The Wolfenbüttel Manuscript of the Jesuit Compendia of Philosophy, Theology and Cosmology in Japanese Translation.” HABlog. Accessible at https://www.hab.de/en/a-rediscovery-in-the-herzog-august-bibliothek/.

平岡隆二. 2022. 「東西コスモロジーの出会いとキリシタン文献」、岸本恵実・白井純編『キリシタン語学入門』八木書店、2022年、39-40頁。

ノイツラ・ゾフィー(Neutzler [Takahashi], Sophie). 2022. 「日本イエズス会Compendiaの新出写本とその表記」、第397回日本近代語研究会2022年度秋季発表大会口頭発表、https://www.academia.edu/103043398

Osterkamp, Sven. 2023. “The Textual History of the Jesuit Compendia in Latin and Japanese as seen from the Newly Identified Manuscript at Herzog August Bibliothek, Wolfenbüttel.” Historia scientiarum 32-2 (2023), pp. 63‒87.

Hiraoka, Ryuji. 2023. “The discovery and significance of Sufera no nukigaki (Selection on the sphere), a Jesuit cosmology textbook in Japanese translation.” Historia Scientiarum 32‒2 (2023), pp. 88‒116.

Kishimoto, Emi. 2023. "Stairway to the Stars: Jesuit Training and the Dictionarium Latino Lusitanicum, ac Japonicum (1595)." in Lachaud, François and Bussotti, Michela eds. Mastering Languages, Taming the World: The Production and Circulation of European Dictionaries and Lexicons of Asian Languages (16th–19th Centuries). EFEO: 2023, pp. 61-76.


2024年3月1日金曜日

2023年度

〈論文〉

「開陽丸引き揚げ文書と梅文鼎『暦算全書』 」、『洋学』30号、2023年5月、159-165頁。

「キリシタンと時計伝来」、大橋幸泰編『近世日本のキリシタンと異文化交流』勉誠社、2023年7月、11-31頁。


〈資料紹介〉

「「キリシタンと時計伝来」関連史料」、大橋幸泰編『近世日本のキリシタンと異文化交流』勉誠社、2023年7月、74-88頁。


〈共編〉

大形徹・武田時昌・平岡隆二・髙井たかね編『東アジア伝統医療文化の多角的考察』臨川書店、2024年2月。


〈研究発表〉

「禁教・潜伏・発見:キリシタンの3世紀(1614-c.1920)」、人文研アカデミー2023シンポジウム「もう一つの〈キリシタン信徒発見〉:1879年茨木・千提寺とフランス人宣教師」、京都、2023年7月17日。

“A Jesuit Cosmology Textbook in Japanese Translation: the Discovery and Significance of Sufera no nukigaki スヘラの抜書(Selection on the Sphere)”、The 16th International Conference on the History of Science in East Asia (16th ICHSEA)、Frankfurt am Main、 2023年8月22日。

“Exploring Cosmology with a Clockwork Astronomical Model: A Public Scientific Lecture in 18th Century Japan”, EHESS seminar “Sciences et savoirs de l'Asie orientale dans la mondialisation (XVIe-XXIe siècle)”, Paris、 2023年11月8日。

“Cosmology in Translation: A Case of Jesuit Textbook during Japan’s “Christian Century” 、International Workshop “Latin as a Cultural Interface between Europe and East Asia in Catholic Missions (16th-18th Centuries)”  organised by Université d'Orléans and IRFA, Paris、2023年11月9日。

「キリシタン布教と科学伝来: 新発見の宇宙論教科書『スヘラの抜書』を中心に」、洋学史学会若手部会例会、大阪、 2023年12月17日。


〈新聞報道など〉

(取材)「西洋天文学 最古の邦訳 16~17世紀、独で発見 来日宣教師が編集」、『読売新聞』夕刊一面・Web版、2023年9月25日。

(取材): 「‘Oldest’Japanese Text on Western Science Unearthed in Germany Library」、『The Yomiuri Shinbun』Culture欄・Web版、2023年9月26日。

(取材):「家族内で信仰 改宗に反対も―大阪・茨木の隠れキリシタン「発見」を再考察」、『毎日新聞』夕刊・文化面・Web版、2023年8月21日。

(取材):「関西の隠れキリシタンはいつ「発見」? 明治期の書簡を仏で確認」、『毎日新聞』夕刊社会面、2023年5月9日。

2023年6月29日木曜日

2022年度

●書いたもの
<雑誌特集号編集> 
Ryuji HIRAOKA ed. Special issue: East-West contacts and scientific culture in early modern East Asia 2. Historia scientiarum 32-2 (2023年3月), pp. 59-156. 

<論文> 
Ryuji HIRAOKA. "The Discovery and Significance of Sufera no nukigaki (Selection on the Sphere), a Jesuit Cosmology Textbook in Japanese Translation." Historia scientiarum 32-2 (2023年3月), pp. 88-116. 

<分担執筆>
平岡隆二「キリシタンと科学伝来-宣教師はなぜ西洋科学を紹介し、どのように受容されたのか」、岩城卓二ほか編『論点・日本史学』、ミネルヴァ書房、2022年8月、170-171頁 (ISBN: 9784623093496)。 

 <書評>
平岡隆二「大島明秀著『蘭学の九州』 」、『熊本日日新聞』、2022年7月10日。 

●報告など 
平岡隆二「イエズス会の日本語宇宙論教科書『スヘラの抜書』の発見とその意義」、日本科学史学会、2022年5月29日。 

Ryuji HIRAOKA. "The discovery and significance of Sufera no nukigaki (Selection on the sphere), a Japanese translation of Jesuit cosmology textbook," International Symposium 'Religion, Translation and Transnational Relations: Japan and (Counter-) Reformation Europe,' Lepzig University, 2022 September 2 

平岡隆二「ワクチン伝来と近世長崎」、国立大学附置研究所・センター会議第3部会シンポジウム「感染症と近代社会:ポストパンデミックの人文学に向けて」、2022年10月28日。

平岡隆二 “Greco-Roman Cosmology in Japan’s ‘Christian Century (1549-c.1650)’” 科研B「日本における西洋古典受容に関する包括的・学際的な国際共同研究」報告会、2022年12月18日。

平岡隆二「イエズス会日本布教と宇宙論-新出写本『スヘラの抜書』を中心に-」、科研費学術変革B「中近世における宗教運動とメディア・世界認識・社会統合(ReMo研)」イエズス会班報告会、2022年12月20日。

堀田仁助

 明和2年(1765)9月20日付で「堀田兵之助」が渋川図書光洪宛に提出した、天文暦術の誓約書が現存する。これは津和野藩士の堀田仁助(1745-1829、通称ははじめ兵之助、号は泉尹)のことだろう。堀田は天明3年(1783)に幕府天文方属員となり、寛政改暦にも参加し、また地理学・...