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研究紹介(仮)

 日本各地の図書館や博物館には、江戸時代の天文学にまつわる夥しい数の書物や儀器が残されています。大学院生の時にそれらを調査するプロジェクトに参加した私は、すぐにその豊かな学問世界に魅了され、やがて江戸の学者たちは、一体何のために「天」について学び、それは彼らの生活や社会のなかでどんな意義や役割を持っていたのか、という関心を持つようになりました。  先行研究では、彼らは「鎖国」の世に生きながらも、地動説など最新の西洋説の優位性を鋭く見抜き、中国に由来する伝統的な学説からいち早く脱却した、「近代」の先駆者とみなされていました。  しかし実際には彼らの学問は、明清期の中国で伝統的な学問の枠組みに適合するよう独自の解釈・再編を受けた西洋説(西学)の深い影響下にあり、また彼らが行ったさまざまな研究も、儒学(朱子学)・仏教学・国学など、既存の知的伝統に強く規定されたものでした。  このように、古今東西の学説とその理念・方法が複雑に絡みあった江戸時代の「天」の学問のあり方を、東西知識交流の観点からとらえ直すことが、私の研究テーマです。

2020~21年度科研報告用業績まとめ

【学会発表】 1.発表者名 2.発表標題 3.学会等名 4.発表年 5.招待講演の有無 6.国際学会の有無 1. Ryuji Hiraoka 2. A Public Cosmology Lecture with a Clockwork Astronomical Model in 18th Century Japan 3. 26th ICHST 2021 (International Conference of History of Science and Technology), Prague, オンライン(Zoom) 4. 2021年7月28日 5. 無 6. 有 1. 平岡隆二 2. イエズス会科学と近世仏教:初中期仏僧の西洋地球説への反応を中心に 3. ReMo研合同研究会「科学、医療、宗教の相互連関─中近世のキリスト教と仏教を中心に─」、オンライン(Zoom)、 4. 2021年9月15日 5. 無 6. 無 1. 平岡隆二 2. 開陽丸引き上げ文書と梅文鼎『暦算全書』 3. 洋学史学会オンラインシンポジウム「開陽丸引き揚げ文書について 幕府天文方と開陽丸」、オンライン(Zoom) 4. 2021年11月14日 5. 無 6. 無 1. Ryuji Hiraoka 2. Buddhist Reaction to the Western Theory of Round Earth in 17th and 18th Century Japan 3. The 6th History of Mathematical Sciences: Portugal and East Asia VI: Measuring Time, Heaven and Earth, Seoul、オンライン(Zoom) 4. 2021年12月9日 5. 有 6. 有 【図書】 1.図書のISBN(国際標準図書番号) 2.著者名 3.出版社 4.書名 5.発行年 6.総ページ数 1. 9784422220109 2. 平井松午・島津美子編 3. 創元社 4. 〈稿本・大名家本〉伊能図研究図録(分担執筆:平岡隆二「長崎歴史文化博物館収蔵「伊能図」」267-273頁) 5. 2022年 6. 344頁 1. 9784840622455 2. 岸本恵美・白井純編 3. 八木書店 4. キ

2021年度業績

  平岡隆二(共著):日本科学史学会編『科学史事典』丸善出版、2021年(担当: 「江戸の天文暦学:西洋天文学知の多様な自己化」 318-321頁) 平岡隆二(共著):洋学史学会監修、青木歳幸ほか編『洋学史研究事典』2021年(担当:「沢野忠庵」「ビュルゲル」「西学書」「坤輿万国全図」「長崎遊学」 ) Ryuji HIRAOKA(共著): Bill M. Mak and Eric Huntington eds. Overlapping Cosmologies in Asia: Transcultural and Interdisciplinary Approaches . Brill, 2022( "Deciphering Aristotle with Chinese Medical Cosmology:  Nanban Unkiron  and the Reception of Jesuit Cosmology in Early Modern Japan." pp. 98-115 ). 平岡隆二(共著):平井松午・島津美子編『〈稿本・大名家本〉伊能図研究図録』創元社、2022年(担当: 「長崎歴史文化博物館収蔵「伊能図」」 267-273頁 )。 平岡隆二(共著):岸本恵美・白井純編『キリシタン語学入門』八木書店、2022年(担当:「東西コスモロジーの出会いとキリシタン文献」 39-40頁)。 <学会発表等> HIRAOKA Ryuji:"A Public Cosmology Lecture with a Clockwork Astronomical Model in 18th Century Japan", 26th ICHST 2021 (International Conference of History of Science and Technology), Prague、オンライン、2021年7月28日。 平岡隆二:「イエズス会科学と近世仏教:初中期仏僧の西洋地球説への反応を中心に」、ReMo研合同研究会「科学、医療、宗教の相互連関─中近世のキリスト教と仏教を中心に─、オンライン、2021年9月15日。 平岡隆二:「開陽丸引き上げ文書と梅文鼎『暦算全書』」、洋学史学会オンラインシンポジウム「開陽丸引き揚げ文書につ

京大宇宙ユニット「宇宙倫理学教育プログラム」受講生募集

 この4月から、京大宇宙ユニットで以下の教育プログラムを実施します。私も科学史の立場から授業の一部を担当します。京大生だけでなく一般の方にも開かれたものなので、関心のある方はぜひ募集案内をご覧ください。 —————————— 件名:「宇宙倫理学教育プログラム」受講生募集 宇宙 and/or 倫理 に興味あるみなさま 嶺重(京大・宇宙ユニット長)です。 京都大学宇宙総合学研究ユニット(宇宙ユニット) では2022年度から新しく 宇宙倫理学教育プログラムを実施することになり、 受講生募集を開始しま した。興味がおありの方は、以下の案内をご参照のうえ、 応募してください。 【プログラムの趣旨など】 近年、民間の参入等により人類の宇宙進出が本格化しており、 これに伴って 既存の知見では対応することが難しい倫理的・法的・ 社会的問題が生じると 予想されています。宇宙ユニットでは、 宇宙開発時代を見越して宇宙倫理学 研究を推進してきました。そして、 宇宙開発に関わる種々の倫理的問題に 取り組み、その解決策を提案できるような人材を育成すべく、 日本初となる 「宇宙倫理学教育プログラム」の策定を進めてきました。 このほど準備が整い、令和4年度受講生の募集をしています。 応募締切:2022年4月7日 応募資格:高校卒業または同等の資格をお持ちの方どなたでも.。 ただし、週一回(月曜4ー5限、前期は 15:00-18:15 の時間帯) 京都大学吉田キャンパスに通学可能であること。 受 講 料:無料 定 員:京都大学 学部生・大学院生 計10名、一般の方 若干名 (審査により決定します) 備 考: 応募はウェブで受けつけます(下記ウェブページ参照のこと)。 所定の授業を履修し成果発表を行った受講生には、宇宙ユニット から修了証を発行します。 教育プログラム内容や応募方法については、以下のウェブページ、 及び 広報動画をご参照ください。 ・宇宙倫理学教育プログラム(SEEP: Space Ethics Education Program) Webサイト:     https://www.usss.kyoto-u.ac. jp/seep/ 広報動画:     https://www.youtube.com/watch? v=ivtS9wXR45c 【参考:こういう人に受講していただきたい】

渡辺庫輔と薮内清、今井溱

「…万屋町には、小林謙貞という天文学、数学史上に重要な位置を占める人も住まっていた。  謙貞は林吉右衛門について天文、地理、星宿、暦法を修めた。この吉右衛門は、刊本長崎先民像[ママ]には吉左衛門に作ってあるが、稿本長崎先民像[ママ]には吉右衛門に作ってある。これを明らかにされたのは古賀先生であって、今日では吉右衛門が正しいとされているが、これは古賀先生の功である。  謙貞は二儀略説を著した。この書は内閣文庫にあって、わたしがこの書の存する事を知ったのは薮内清博士の示教によるが、これの写本は今井湊[ママ]さんの好意によって書架に加えることが出来た。」 出典:渡辺庫輔「長崎町づくし(105):郷土史の参考に 残っている若松[ママ]家系図」(長崎新聞、昭和37年7月7日付)

2021年の仕事

今年の前期は京大文学部の特殊講義「東西宇宙観の出会いと交流」の準備に追われ、夏以降も発表が重なったりでかなり忙しかった。コロナで講演が飛んだりもした。4月にはじまった人文研の研究班「仏教天文学説の起源と変容」はだいぶ軌道にのってきて、ありがたいことである。今年中にどうしてもまとめたかった原稿は、まだもうひとふんばり。だが、だいぶ目処が立ちつつある。アウトプットは少なめだが、現況を考えるとやむなし、というかよくがんばったと思う。2017年くらいから自分の研究は新しいフェイズに入ったと思う。とくに科学史事典の原稿を書かせてもらえたのは、ありがたかった。そのアイデアをどう形にしてゆくかが、来年以降の課題である。今年も公私ともに多くのみなさまのお世話になりました。みなさまどうぞよいお年を。 <出版物>  平岡隆二「江戸の天文暦学:西洋天文学知の多様な自己化」、日本科学史学会編『科学史事典』丸善出版、2021年5月、318-321頁。(項目執筆) 平岡隆二「沢野忠庵」「ビュルゲル」「西学書」「坤輿万国全図」「長崎遊学」、洋学史学会監修、青木歳幸ほか編『洋学史研究事典』2021年9月。(項目執筆) <学会発表等> HIRAOKA Ryuji. "A Public Cosmology Lecture with a Clockwork Astronomical Model in 18th Century Japan." at 26th ICHST 2021 (International Conference of History of Science and Technology), Prague (Zoom), 2021年7月28日。 平岡隆二「イエズス会科学と近世仏教:初中期仏僧の西洋地球説への反応を中心に」、科研費学術変革B”中近世における宗教運動とメディア・世界認識・社会統合(ReMo研)”合同研究会「科学、医療、宗教の相互連関─中近世のキリスト教と仏教を中心に─」(オンライン開催)、2021年9月15日。 平岡隆二「開陽丸引き上げ文書と梅文鼎『暦算全書』」、洋学史学会オンラインシンポジウム「開陽丸引き揚げ文書について 幕府天文方と開陽丸」、2021年11月14日。 HIRAOKA Ryuji. "Buddhist Reaction to th

「天学」はどのように学べばよいのか?どの書物を読めばよいのか?(西川正休『大略天学名目鈔』天学初学問答、享保14年[1729])

問、天学ヲ学ブハ、仰見テ学ブヤ、書記ニ依テ学ブヤ。書ニ依ラバ何レノ書ニ依ンヤ。 曰、書ト云者ハ[7ウ]往古ノ法ト理トヲ入テ末代ニ遺ス器物ニテ、止コトヲ得ズシテ用ル物ナリ。尭舜孔子今存命玉ハヾ、何ゾ経典ヲ閲シテ学ンヤ。天地ハ古今一天地ニテ、伏羲ノ仰見玉フ三光モ即チ今日ノ日月星辰ナレバ、書ニ因テ学ビズトモ直ニ天地ヲ見テ学ブベシ。然ト雖ドモ、天地ハ長ク人命ハ限リ有リ。故ニ人間一生ノ間ダ仰ギ見ルト雖フトモ、イマダ窮ラザル所アラン。是故ニ、書記ニ依テ古人ノ説ヲ閲シ、古人ノ測算道理ヲ知テ、是ヲ自ラ天地ニ考験シテ、古人ノ非ヲ捨テ是ヲ取ルコト[8オ]肝要ナリ。縦ヒ聖人ノ語ト雖フトモ、天地ノ形体ニ合セズンバ何ゾ用ンヤ。易経ヲ尊ブガ如キモ、河洛卦爻ノ道理悉ク天地ノ形体ニ合スルヲ以テ、聖人ノ聖人タルコトヲ知テ尊信スル也。 古ヨリ一部ノ書ニ始終全ク天学ヲ説タルハナシ。適々有ト雖ドモ全ク用ルニタラズ。今多ク世間ニ流布スル所ノ天文地理ヲ著シタル書ハ『天経或問』ノミニテ、此外ニ用ベキ書ナシ。暦書ハ有リト雖ドモ、総テ暦書ニハ日月星運行ノ数術ノミヲ記シテ、天地ノ形体ト天地ノ道理トヲ詳ニセズ。[8ウ]故ニ儒家・医家ノ如キハ学テ用少シ。『天経或問』モ弊ヘ多シト雖ドモ、古今ノ諸説ヲ集メテ篇ヲ成シ、殊ニ天地ノ形体ト道理トヲ大概ニ説ケルガ故ニ、撰ミ用テ可也。本ヨリ暦書ニアラザル故カ暦数モ甚疎ク、殊ニ外国ノ暦数ハ『天経』ノ説ヲ用ヰズ、暦記ニ従テ学ブベシ。都テ書籍ニ全ク弊ヘナキハ寡キ者ナリ。知レル人ニ聞テ其書ノ得失ヲ知ベシ。予ガ是ヲ誌スニモ亦弊ヘアルベシ。見ル人正シ玉ヘ。 曰、然ラバ初ヨリ『天経或問』ヲ学テ冝キ乎。 曰、『天経或問』ハ云ニ及バズ、都テ天学ノ書ハ形体ト道理ト事業ト、三ノ者ヲ兼備テ説タル故ニ、師伝ニ非レバ解シ難シ。故ニ予ハ初学ヲ教ルニ先ヅ初メニ天学ノ名目ヲ知シメ、次ニ書経二典ヲ説テ、其後『天経或問』或ハ外夷ノ説ニ至ルマデ、皆二典ノ趣ニ合シ、天地ノ形体ニ合スルヲ取ル。是故ニ初学ノ為ニ名目ヲ記スコト左ノ如シ。 于時 享保己酉[14・1729]仲冬書于武江 西川忠次郎正休