2011年6月5日日曜日

倉場富三郎蔵書印(長崎の印章11)

久しぶりにブログを更新する。これまで書いた「長崎の印章」シリーズは、それぞれ大幅にリライトして、勤務先博物館の紀要最新号にまとめて出版する予定にしている(第5号。そのうち出ます)。これに懲りず、今後もときどき書いていくつもりで、今回は倉場富三郎です。
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印文:「倉場蔵書」(方・陽・朱印、24×24mm)
出典:Shirley Hibberd, The Amateur's Greenhouse and Conservatory, revised by T.W.Sanders, London, W.H. and Collingridge, [year unknown](ヒバード『アマチュアのための温室』出版年不明)<2_712>

倉場富三郎(1870-1945)は、トーマス.B.グラバー(1838-1911)と妻・ツル(1851-1899)の間に長崎に生まれた。学習院で学んだ後、アメリカに留学しペンシルバニア大学で生物学を学んだ。帰国後は長崎に戻り、ホーム・リンガー商会に勤める。その後は、長崎の実業界/社交界の中心人物として、日本初のトロール漁の導入や、長崎内外倶楽部の創設、雲仙ゴルフ場の設立にかかわり、また全32集801枚に及ぶ魚譜『グラバー図譜』の編纂など、多方面で活躍した。しかし晩年には戦時中にスパイの嫌疑を受け、不遇のうちに自ら命を絶っている。
 その死後、蔵書は散佚したらしいが、比較的まとまった分量が倉場富三郎寄贈図書として県立図書館に収蔵され、現在は長崎歴史文化博物館に移管されている。上掲印は、富三郎寄贈洋書(請求番号2_700番台を中心とする)にしばしば確認することができ、今回富三郎の蔵書印と比定した。他に同印が捺された洋書に、Joseph Bennett, Billiards, edited by Cavendish, 7th edition, London, Thos. de la rue & co. ltd., 1899(ベネット『ビリヤード』)< 2_738 > や、Frances A. Shaw, Victor Hugo: His Life and Works, Chicago, S.C.Griggs and company, 1881(ショー『ヴィクトル・ユーゴー』)<2_766> など多数ある。
 本書『アマチュアのための温室』は、素人向けに温室の作り方や管理について概説した啓蒙書で、その内容はグラバー邸の温室を想起させる。また本書にはブックマーク代わりに下記の英文招待状が挟まれている。

The honour of your presence is requested at the Grand Bazaar and Concert to be held under the auspices of the Ladies of the Nagasaki Jizenkwai, (Benevolent Soceity), at the Maizuruza Theatre, Shindaiku=machi, on Saturday and Sunday, the 22nd and 23rd inst., from 2 to 10 p.m.
The funds raised are for the benefit of the Society's Asylum for the Blind and Dumb.
Nagasaki, Nov. 15th, 1902.


 1902年11月22・23日、長崎慈善会のご婦人がたが舞鶴座で行ったというこのバザー/コンサートに、富三郎は参加したのであろうか。
 長崎歴史文化博物館に移管済みの富三郎の旧蔵書や古写真、また書翰類については、いまだその全体像が把握されていないように思うが、それらの研究を通じて、彼が活躍した大正・昭和初期長崎の政財界や社交界についても、新たに多くの知見が得られるに違いない。

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