2021年12月31日金曜日

2021年の仕事

今年の前期は京大文学部の特殊講義「東西宇宙観の出会いと交流」の準備に追われ、夏以降も発表が重なったりでかなり忙しかった。コロナで講演が飛んだりもした。4月にはじまった人文研の研究班「仏教天文学説の起源と変容」はだいぶ軌道にのってきて、ありがたいことである。今年中にどうしてもまとめたかった原稿は、まだもうひとふんばり。だが、だいぶ目処が立ちつつある。アウトプットは少なめだが、現況を考えるとやむなし、というかよくがんばったと思う。2017年くらいから自分の研究は新しいフェイズに入ったと思う。とくに科学史事典の原稿を書かせてもらえたのは、ありがたかった。そのアイデアをどう形にしてゆくかが、来年以降の課題である。今年も公私ともに多くのみなさまのお世話になりました。みなさまどうぞよいお年を。


<出版物>

 平岡隆二「江戸の天文暦学:西洋天文学知の多様な自己化」、日本科学史学会編『科学史事典』丸善出版、2021年5月、318-321頁。(項目執筆)

平岡隆二「沢野忠庵」「ビュルゲル」「西学書」「坤輿万国全図」「長崎遊学」、洋学史学会監修、青木歳幸ほか編『洋学史研究事典』2021年9月。(項目執筆)


<学会発表等>

HIRAOKA Ryuji. "A Public Cosmology Lecture with a Clockwork Astronomical Model in 18th Century Japan." at 26th ICHST 2021 (International Conference of History of Science and Technology), Prague (Zoom), 2021年7月28日。

平岡隆二「イエズス会科学と近世仏教:初中期仏僧の西洋地球説への反応を中心に」、科研費学術変革B”中近世における宗教運動とメディア・世界認識・社会統合(ReMo研)”合同研究会「科学、医療、宗教の相互連関─中近世のキリスト教と仏教を中心に─」(オンライン開催)、2021年9月15日。

平岡隆二「開陽丸引き上げ文書と梅文鼎『暦算全書』」、洋学史学会オンラインシンポジウム「開陽丸引き揚げ文書について 幕府天文方と開陽丸」、2021年11月14日。

HIRAOKA Ryuji. "Buddhist Reaction to the Western Theory of Round Earth in 17th and 18th Century Japan." at The 6th History of Mathematical Sciences: Portugal and East Asia VI: Measuring Time, Heaven and Earth, Seoul (Zoom), 2021年12月9日。

2021年5月8日土曜日

「天学」はどのように学べばよいのか?どの書物を読めばよいのか?(西川正休『大略天学名目鈔』天学初学問答、享保14年[1729])

問、天学ヲ学ブハ、仰見テ学ブヤ、書記ニ依テ学ブヤ。書ニ依ラバ何レノ書ニ依ンヤ。

曰、書ト云者ハ[7ウ]往古ノ法ト理トヲ入テ末代ニ遺ス器物ニテ、止コトヲ得ズシテ用ル物ナリ。尭舜孔子今存命玉ハヾ、何ゾ経典ヲ閲シテ学ンヤ。天地ハ古今一天地ニテ、伏羲ノ仰見玉フ三光モ即チ今日ノ日月星辰ナレバ、書ニ因テ学ビズトモ直ニ天地ヲ見テ学ブベシ。然ト雖ドモ、天地ハ長ク人命ハ限リ有リ。故ニ人間一生ノ間ダ仰ギ見ルト雖フトモ、イマダ窮ラザル所アラン。是故ニ、書記ニ依テ古人ノ説ヲ閲シ、古人ノ測算道理ヲ知テ、是ヲ自ラ天地ニ考験シテ、古人ノ非ヲ捨テ是ヲ取ルコト[8オ]肝要ナリ。縦ヒ聖人ノ語ト雖フトモ、天地ノ形体ニ合セズンバ何ゾ用ンヤ。易経ヲ尊ブガ如キモ、河洛卦爻ノ道理悉ク天地ノ形体ニ合スルヲ以テ、聖人ノ聖人タルコトヲ知テ尊信スル也。

古ヨリ一部ノ書ニ始終全ク天学ヲ説タルハナシ。適々有ト雖ドモ全ク用ルニタラズ。今多ク世間ニ流布スル所ノ天文地理ヲ著シタル書ハ『天経或問』ノミニテ、此外ニ用ベキ書ナシ。暦書ハ有リト雖ドモ、総テ暦書ニハ日月星運行ノ数術ノミヲ記シテ、天地ノ形体ト天地ノ道理トヲ詳ニセズ。[8ウ]故ニ儒家・医家ノ如キハ学テ用少シ。『天経或問』モ弊ヘ多シト雖ドモ、古今ノ諸説ヲ集メテ篇ヲ成シ、殊ニ天地ノ形体ト道理トヲ大概ニ説ケルガ故ニ、撰ミ用テ可也。本ヨリ暦書ニアラザル故カ暦数モ甚疎ク、殊ニ外国ノ暦数ハ『天経』ノ説ヲ用ヰズ、暦記ニ従テ学ブベシ。都テ書籍ニ全ク弊ヘナキハ寡キ者ナリ。知レル人ニ聞テ其書ノ得失ヲ知ベシ。予ガ是ヲ誌スニモ亦弊ヘアルベシ。見ル人正シ玉ヘ。

曰、然ラバ初ヨリ『天経或問』ヲ学テ冝キ乎。 曰、『天経或問』ハ云ニ及バズ、都テ天学ノ書ハ形体ト道理ト事業ト、三ノ者ヲ兼備テ説タル故ニ、師伝ニ非レバ解シ難シ。故ニ予ハ初学ヲ教ルニ先ヅ初メニ天学ノ名目ヲ知シメ、次ニ書経二典ヲ説テ、其後『天経或問』或ハ外夷ノ説ニ至ルマデ、皆二典ノ趣ニ合シ、天地ノ形体ニ合スルヲ取ル。是故ニ初学ノ為ニ名目ヲ記スコト左ノ如シ。 于時 享保己酉[14・1729]仲冬書于武江 西川忠次郎正休

2021年4月16日金曜日

2020年度の書いたもの

平岡隆二「蘭学(洋学)」、日本思想史事典編集委員会『日本思想史事典』丸善出版、2020年4月。 

平岡隆二 「今井溱さんと『天官書』」『人文』第67号、2020年、55-57頁。

平岡隆二「キリシタンと和時計関連史料」、大橋幸泰編『2017~2020年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(一般)17H02392「近世日本のキリシタンと異文化交流」中間成果報告集』大橋幸泰、2021年2月、62-73頁。

堀田仁助

 明和2年(1765)9月20日付で「堀田兵之助」が渋川図書光洪宛に提出した、天文暦術の誓約書が現存する。これは津和野藩士の堀田仁助(1745-1829、通称ははじめ兵之助、号は泉尹)のことだろう。堀田は天明3年(1783)に幕府天文方属員となり、寛政改暦にも参加し、また地理学・...