『長崎名勝和歌』なる歌集がある(長崎歴史文化博物館・渡辺文庫12_102)。
手元にあるのは長崎の歴史研究に生涯を捧げた渡辺庫輔氏の旧蔵本で、原稿用紙にペン書きで記された本文は、渡辺氏の自筆とみて間違いないと思う。
冒頭に近世長崎を訪れた奉行らの歌を配するものの、約百首あまりの大部分は詠み人知らずで、編著者も不明である。あるいは歌人でもあった渡辺氏の詠草ではないかとも勘ぐっているが、それを確かめるための資料や手段が手元にない。そこでここでは見るべき歌をいくつか拾いあげるにとどめ、素性・由来については後考を俟ちたい。
日見嶺のさくらを見にまかりて 高力攝津守忠房
都にて日見のさくらをひととはゝ いかゝこたへむ雪のうもれ木
きさらきの頃長崎に侍しとき 松平近江守隠居幽翁
山端に夕日のかけはかたふけと あかぬうめそのはなのしたかけ
瓊廼浦
外国の人もみよとやてる月の ひかりをみかく玉の浦なみ
川瀬の石に鳴瀧のふたもしをゑりつけ侍をみてよめる
水のおとはたへはてゝしもなるたきの 名こそは石になほのこりけれ
御薬園にてよめる
たくひなきくすりのそのにすむ人は かりのやまひもあらしとそ思ふゆ
妙見社のかたはらに侍るまゝ水をみてよめる
北にすむほしのひかりやうつるらむ ちりもくもらぬ水のかゝみは
鯖くたしてふ岩をみてよめる
いまもなほあやうくみゆるいはほかな かくてむかしも鯖くたしけむ
悟真寺にやとりて
聞からにうき世の夢もさめはてつ さとりの寺のあかつきのかね
長崎名勝をよめる歌ともの中に
しほかせのかすみふきとくたえまより ほのかにみゆる高鉾の島
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