2019年4月6日土曜日

新発見!17世紀日本の天文模型(ジュネーブ天儀)

先日、クリストファー・カレンさん(Christopher CULLEN, ニーダム研究所名誉所長・ケンブリッジ大学名誉教授)との共著英語論文:

Christopher CULLEN and HIRAOKA Ryuji, “The Geneva Sphere: An Astronomical Model from 17th Century Japan”, Technology and Culture 60, no. 1 (2019): 219-251.
  1. DOI: 10.1353/tech.2019.0007


が出版されましたが、内容について多くの方に問い合わせを頂きましたので、来月出版される予定の日本語版:

平岡隆二・クリストファーカレン「ジュネーブ天儀:17 世紀日本の天文模型」、『洋学:洋学史学会研究年報』第26号、2019年、49-78頁。(forthcoming)

の要旨を以下にアップしました。この天儀の存在についてカレンさんから初めて知らされた2017年5月以降、これまで集中的に研究してきましたが、調べれば調べるほどその重要性が高まります。近世日本の科学史、キリシタン史に新たな一石を投げかける新史料の発表に、どうぞご期待下さい。


〈日本語版要旨〉
 本論文は、これまで学会に未知の新史料「ジュネーブ天儀」にまつわる調査結果の大要を示しつつ、本器をその歴史的・文化的コンテクストの中に位置づけようとするものである。この天儀は、天を模した球形の模型で、鍍金による銘や模様が施されている。本体は台座に固定された支持フレーム中の傾斜軸に据え付けられ、実際の天の運行に合うように、時計機構で回転する仕組みになっている。
 実施した調査は、天球のデザインとその目盛・銘の天文学的な意味の分析、想定される製作地と年代に関する文献調査、本器に使用された素材の成分分析、製作・装飾様式にまつわる冶金学的および顕微鏡による分析、などからなる。これまで得られたすべての証拠は、このジュネーブ天儀が作られたのは、17世紀の日本であったことを指し示すか、あるいはそう考えて矛盾ないものであり、さらには本器が、イエズス会宣教師が伝えた西洋の時計技術と東アジア天文暦学の伝統との異種交配の産物であったことをも示している。最も重要な証拠は、17世紀日本に存在した、本器とよく似た時計駆動式天文器具にまつわる同時代の明確な証言であるが、それ以外にも多くの証拠を挙げることができる。
 ジュネーブ天儀は、かつて多数存在したことが確実なこの種の器具の、唯一の現存例と思われる。近世期の日本人は、たとえ専門家でなくても、西洋の技術と混交した東洋の天文暦学という文化資本の価値をこの種の器具を通じて認識し、自己のものとすることができた。本器は東アジアの天文学と時計の歴史における第一級の発見であり、また異文化間の技術移転を伝える貴重な具体例でもあるのである。


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